要注意!居住用財産譲渡と住宅ローン控除の”両取り”はできない?その制限と対策

住宅の買い替えを行う際、多くの方が居住用財産の譲渡所得に対する特例と住宅ローン控除の両方の適用を希望されます。
しかし、これらの特例には併用に関する厳しい制限があり、知らずに手続きを進めると思わぬ税負担が生じることがあります。
今回は、この2つの特例の併用制限について、事例を交えながら解説します。
目次
居住用財産譲渡特例と住宅ローン控除の基本
居住用財産の譲渡所得に関する特例は、自宅を売却した際に生じる譲渡所得に対する税負担を軽減する制度です。
具体的には、所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得に対する課税の特例や、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除などがあります。
一方、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、その年末のローン残高の一定割合を所得税額から控除できる制度です。
最大で10年間(現在は13年間に延長されている場合もあります)にわたって適用を受けることができます。
両方の特例は、住宅の買い替えを行う際に活用したい制度ですが、税法上はこれらの併用に関して時期的な制限が設けられています。
単純に両方を適用しようとすると、いずれかの適用が否認される可能性があるため注意が必要です。
特に、居住用財産譲渡特例の適用後に住宅ローン控除を受けようとする場合、または住宅ローン控除を受けている最中に居住用財産譲渡特例を適用しようとする場合は、慎重な検討が必要となります。
居住用財産譲渡特例と住宅ローン控除の併用禁止ルール
一定期間内の居住用財産譲渡特例と住宅ローン控除の併用は禁止されています。
令和2年4月1日以後の譲渡の場合、新居に居住を開始した年とその前2年・後3年の計6年間において、居住用財産譲渡特例の適用を受けている場合、住宅ローン控除は適用できません。
令和2年3月31日以前の譲渡の場合は、新居に居住を開始した年とその前後2年ずつの計5年間が併用禁止期間となります。
つまり、この期間内で居住用財産譲渡特例を使うと、住宅ローン控除は受けられないということです。
例えば、令和7年に新居に入居する場合、令和5年~令和10年の間に居住用財産譲渡特例を適用すると住宅ローン控除が受けられません。
逆に既に住宅ローン控除を受けている場合は、その控除期間中に居住用財産譲渡特例を適用すると、住宅ローン控除が遡って取り消され、修正申告が必要になることもあります。
この規定は、両方の税制優遇を同時期に受けることを防ぐ目的がありますが、時系列的に考慮すべき点が多く、専門家でも誤りやすい部分です。
令和2年度税制改正による併用禁止期間の延長
居住用財産譲渡特例と住宅ローン控除の併用禁止期間は、令和2年度税制改正により延長されました。
この改正は、会計検査院の指摘に基づくものです。
改正前は、新居に居住した年の前後2年間(計5年間)に居住用財産譲渡特例を適用した場合に住宅ローン控除が受けられませんでした。
しかし、この制度設計だと、新居入居の3年後に旧居を売却し、居住用財産譲渡特例を適用するという「抜け道」が存在していました。
会計検査院は、この点を「制度の趣旨に鑑みると合理的ではなく、必ずしも必要最小限のものとなっていない」と指摘しました。
そこで令和2年度改正では、併用禁止期間が「新居に居住を開始した年とその前2年・後3年の計6年間」に延長されました。
これにより、新居入居後3年目の譲渡による抜け道が塞がれたのです。
この改正は、納税者にとっては住宅の買い替え計画に大きな影響を与える可能性があります。
特に、旧居の売却と新居の購入を数年にわたって計画している場合は、この併用禁止期間を十分に考慮して計画を立てる必要があります。
具体的なケースと対策:譲渡が先行する場合
居住用財産の譲渡が先行する場合、どのように対応すればよいでしょうか。ケース別に見ていきましょう。
【ケース1】令和7年に居住用財産を譲渡し、譲渡特例を適用した場合
この場合、令和7年から令和9年までの間に新居に入居すると、住宅ローン控除は受けられません。
対策としては、新居への入居を令和10年以降にするか、譲渡特例の適用を見送ることを検討します。
譲渡益が大きい場合は前者が有利でしょう。
【ケース2】令和7年に契約・令和8年に引渡しの場合
どちらの年分で申告するかという選択ができます。
令和7年分として申告すれば、令和10年以降の入居で住宅ローン控除が可能、令和8年分として申告すれば、令和11年以降の入居で住宅ローン控除が可能です。
重要なのは、この選択は当初申告時にのみ行えるということです。
いったん選択した課税年分を後から修正申告で変更することはできないため、当初申告時に慎重に検討する必要があります。
なお、譲渡特例を適用せず、通常の譲渡所得として税金を納めれば、住宅ローン控除との併用制限はありません。
譲渡所得が少額の場合は、この選択が有利なこともあります。
具体的なケースと対策:住宅ローン控除が先行する場合
住宅ローン控除の適用を受けた後に居住用財産を譲渡する場合も注意が必要です。
令和7年に居住用財産を譲渡し居住用財産特例を適用すると、令和4年から令和6年まで適用を受けていた住宅ローン控除が遡って取り消されます。
これにより、既に受けた住宅ローン控除の税額分を修正申告して納付する必要が生じます。
そのため譲渡所得が少ない場合は、譲渡特例を適用せず通常の譲渡所得として申告することを検討します。
また、両特例の併用禁止規定は複雑なため、専門家に相談する際も、将来の不動産取引の予定まで詳しく伝えることが重要です。
住宅の買い替えを計画的に行う場合は、数年先までの税務上の影響を考慮し、総合的に判断することをおすすめします。
注意点
譲渡益が出ている場合
合計所得金額が1000万円を超えてくると住宅ローン控除を適用できないケースが出てきます。
この合計所得金額は居住用財産の特別控除前の所得金額となりますので、居住用財産譲渡特例の適用の有無にかかわらず注意が必要です。
そのほか基礎控除額や配偶者控除などにも影響が出てきますので確定申告の際は十分に確認しましょう。
土地の取得時期
住宅ローン控除と併用できる譲渡所得の特例に平成21年・22年に取得した土地等の特別控除があります。
この時期に土地を取得していると、土地の譲渡益から最大1000万円を控除することが可能です。
この特例を適用できる場合は、住宅ローン控除を受ける場合のシミュレーションに組み込んで有利不利を検討しましょう。
まとめ
居住用財産譲渡特例と住宅ローン控除は、それぞれに有用な税制優遇措置ですが、併用には厳しい時期的制限があります。
令和2年度税制改正でその制限期間は更に延長され、新居居住年の前2年・後3年の計6年間となりました。
不動産取引を計画する際は、この併用禁止期間を考慮して、最も税負担が少なくなる方法を選ぶことが重要です。
また、一度選択した申告方法は修正申告で変更できないことも覚えておきましょう。
不明点があれば、必ず事前に税理士などの専門家に相談し、将来の住宅計画も含めた総合的なアドバイスを受けることをお勧めします。