今年からは赤字でも申告必須!最大45%控除の中小企業の賃上げ促進税制と5年間の繰越控除制度の全容

令和6年度税制改正において、中小企業向け賃上げ促進税制が大きく拡充されました。
従業員の賃上げを行った中小企業に対して最大45%の税額控除が受けられるだけでなく、新たに「繰越税額控除制度」が創設され、赤字企業でも賃上げのメリットを享受できるようになりました。
本記事では、令和7年3月決算に向けて、この制度の概要や適用要件、手続方法などを分かりやすく解説します。
賃上げを検討している中小企業の経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
中小企業向け賃上げ促進税制の基本概要
中小企業向け賃上げ促進税制は、従業員の給与を増加させた中小企業に対して税額控除を認める制度です。
対象となるのは資本金1億円以下の青色申告法人で、適用除外事業者(前3年の平均所得が15億円を超える事業者や大企業の子会社等)を除きます。
この制度の基本的な仕組みは、雇用者給与等支給額を前年比で1.5%以上増加させた場合に、その増加額(控除対象雇用者給与等支給増加額)に一定の税額控除率を乗じた金額を法人税額から控除できるというものです。
税額控除率は原則15%ですが、後述する上乗せ措置の適用により最大45%まで引き上げることが可能です。
控除上限額は当期の法人税額の20%となっています。
例えば、前年の給与総額が1億円の会社が、今年1.5%増の1億1,500万円に賃上げした場合、その増加額1,500万円に税額控除率15%を乗じた225万円が法人税額から控除されることになります。
これは単純な税額の減少だけでなく、優秀な人材確保や従業員のモチベーション向上にもつながる施策といえるでしょう。
特に注目すべきは、令和6年度税制改正により創設された「繰越税額控除制度」です。
これにより赤字企業でも賃上げのメリットを受けられるようになりました。
税額控除率が最大45%になる3つの上乗せ措置
中小企業向け賃上げ促進税制では、基本の税額控除率15%に加えて、以下の3つの上乗せ措置があり、これらすべてを満たすと最大45%の税額控除が受けられます。
① 賃上げ率による上乗せ(+15%)
雇用者給与等支給額の対前年比の増加割合が2.5%以上の場合、税額控除率が15%上乗せされます。
つまり基本の15%と合わせて30%の税額控除が受けられます。
② 教育訓練費による上乗せ(+10%)
教育訓練費の対前年比の増加割合が5%以上、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上の場合、税額控除率が10%上乗せされます。
注意点として、教育訓練の対象者は法人の国内雇用者のみであり、個人事業主本人やその会社の役員、内定者などの入社予定者は対象外となります。
教育訓練費の増加は従業員のスキルアップにつながるため、生産性向上にも効果的です。
③ 女性活躍・子育て支援による上乗せ(+5%)
「くるみん認定」「くるみんプラス認定」「えるぼし認定(2段階目以上)」を適用事業年度中に取得した場合、または「プラチナくるみん認定」「プラチナくるみんプラス認定」「プラチナえるぼし認定」を適用事業年度終了時において取得している場合に、税額控除率が5%上乗せされます。
重要なのは、「くるみん認定」等は適用事業年度中に取得する必要があり、過去に取得した認定では上乗せ措置の適用が受けられません。
一方、「プラチナくるみん認定」等は、適用事業年度終了時に取得していれば良いため、過去に取得した認定でも適用事業年度終了時まで有効であれば上乗せ措置の適用が受けられます。
赤字でも活用できる!繰越税額控除制度
令和6年度税制改正の目玉の一つが「繰越税額控除制度」の創設です。
従来の制度では、赤字企業や税額控除額が大きくて当期の法人税額を超えてしまう場合、控除しきれない部分は切り捨てられていました。
しかし、新制度では令和6年4月1日以後開始事業年度に生じた「控除しきれない金額(繰越税額控除限度超過額)」を最大5年間繰り越すことが可能になりました。
例えば、賃上げによる税額控除額が500万円であるにもかかわらず、当期の法人税額が200万円しかない場合、従来は200万円の控除しか受けられませんでしたが、新制度では残りの300万円を5年間にわたって繰り越し、将来の法人税額から控除することができます。
この繰越税額控除制度を適用するには以下の条件を満たす必要があります。
- 繰越控除をする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前年度の給与額)を超えていること
- 所定の明細書を確定申告書に添付すること
具体的には、①繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度では「別表六(二十四)」と「別表六(二十四)付表一」、②繰越事業年度では「別表六(二十四)付表一」、③繰越控除をする事業年度では「別表六(二十四)」と「別表六(二十四)付表一」を確定申告書に添付する必要があります。
この制度により、一時的に業績が悪化して赤字になった企業でも、従業員の賃上げによるメリットを将来にわたって享受できるようになります。
特に景気変動の影響を受けやすい中小企業にとって、大きな支援策となるでしょう。
制度適用の手続きと申告書類
中小企業向け賃上げ促進税制を適用するためには、適切な申告手続きと必要書類の提出が不可欠です。
ここでは、制度適用のための具体的な手続きと申告書類について説明します。
基本的な申告手続き
この制度を適用するためには、確定申告書に「別表六(二十四)給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を添付する必要があります。
この明細書には、雇用者給与等支給額、比較雇用者給与等支給額(前年度の給与額)、増加割合、控除対象雇用者給与等支給増加額、適用される税額控除率などを記載します。
また、教育訓練費による上乗せ措置や女性活躍・子育て支援による上乗せ措置を適用する場合は、それぞれの要件を満たしていることを示す資料も準備しておくことが望ましいでしょう。
繰越税額控除制度の申告手続き
繰越税額控除制度を適用する場合は、以下の書類が必要になります。
- 繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度:「別表六(二十四)」と「別表六(二十四)付表一」
- 繰越事業年度:「別表六(二十四)付表一」
- 繰越控除をする事業年度:「別表六(二十四)」と「別表六(二十四)付表一」
特に注意すべき点として、繰越税額控除制度を適用するためには、繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度以後の各事業年度において、継続して必要な明細書を添付する必要があります。
一度でも添付を忘れると、その後の繰越控除が認められなくなる可能性があるため、注意が必要です。
また、研究開発税制など他の税額控除制度と併用する場合は、「別表六(六)」等も添付する必要があります。
これらの書類作成には専門的な知識が必要なため、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
実務上の注意点と活用のポイント
中小企業向け賃上げ促進税制を最大限に活用するための実務上の注意点とポイントをご紹介します。
実務上の注意点
①雇用者給与等支給額の範囲を正確に把握する
給与や賞与が対象になりますが雇用安定助成金額などを控除します。
給与に充当される金額の控除漏れは間違いが多くなっている箇所ですので注意が必要です。
一方で、退職金など給与所得とされないものは原則として該当しません。
②教育訓練費の範囲を確認する
社外研修費用や外部講師への謝礼等が対象となりますが、内定者など入社予定者への教育訓練費は対象外です。
また、教育訓練を受けるための旅費交通費なども対象になりません。
③認定取得のタイミングに注意する
くるみん認定等は適用事業年度中の取得が必要ですが、プラチナくるみん認定等は適用事業年度終了時に取得していれば良いという違いがあります。
認定取得を検討している場合は、このタイミングを意識して申請を進めましょう。
④繰越税額控除の手続きを忘れない
繰越税額控除制度を適用するためには、毎期継続して必要な明細書を添付する必要があります。
一度でも添付を忘れると、その後の繰越控除が認められなくなる可能性があるため注意しましょう。
活用のポイント
①戦略的な賃上げ計画の立案
税額控除率が最大になるよう、賃上げ率2.5%以上を目指した人事戦略を検討しましょう。
通常の定期昇給に加え、業績連動型賞与の導入なども効果的です。
②教育訓練費の戦略的投資
教育訓練費の10%上乗せを狙うなら、年度初めに教育訓練計画を立て、計画的に実施することが重要です。
これにより従業員のスキルアップと税額控除の両方が実現できます。
③複数の税額控除制度との併用
研究開発税制など他の税額控除制度と併用することで、さらなる税負担の軽減が可能です。
ただし控除順序や控除限度額に注意が必要です。
まとめ
中小企業向け賃上げ促進税制は、従業員の賃上げを実施した企業に対して最大45%という高い税額控除率を適用する制度です。
さらに令和6年度税制改正で導入された繰越税額控除制度により、赤字企業でも将来的に税メリットを享受できるようになりました。
この制度を活用するためには、賃上げ率や教育訓練費の増加、各種認定の取得など、各要件を正確に理解し、適切な申告手続きを行うことが重要です。
従業員の処遇改善と企業の税負担軽減を両立させる絶好の機会ですので、ぜひ積極的に検討してみてください。