節税効果を最大化するための複数税額控除の順番と限度額の考え方

事業を拡大している事業主の方は前年より従業員も増えて、設備投資も継続して行っているのではないでしょうか。

そんな時に所得税や法人税の納税負担を減らせる税額控除は、ぜひとも適用したい制度です。

しかし「複数の控除が同時にある場合、どう計算するのか?」「限度額に引っかかって結局使えなかった」という声も少なくありません。

各税額控除にはそれぞれの限度額があり、さらに複数控除を併用する場合には事業所得に係る所得税や法人税の90%までという制限も存在します。

今回は、所得拡大促進税制や中小企業投資促進税制などを例に、限度額計算や超過額の取り扱いを整理しながら、税額控除を最大限に活かす方法をわかりやすく解説します。

各税額控除ごとの限度額の考え方

税額控除を検討するときに、まず押さえるべきは「各控除ごとに限度額が設定されている」という点です。

例えば、個人事業主の従業員の人件費が昨年に比べて一定程度増加した場合に適用できる賃上げ促進税制では調整前の事業所得に係る所得税額の20%までしか控除できず、中小企業投資促進税制も同様に制限があります。

仮にこの賃上げ促進税制の税額控除が30万円だったとしても、事業所得の所得税が100万円であると20万円(100万円×20%)までしか控除できないこととなります。

つまり、税額控除の計算上は大きな金額が出ても、所得税額自体が少なければフルに控除できないということです。

まずは各税額控除制度それぞれの限度額を計算し、実際にいくら控除できるかシミュレーションしておくことが重要です。

限度額を超えた金額の取り扱い

上記の例で挙げた賃上げ税制による税額控除30万円のうち、限度額の20万円を超えた金額10万円はどのように取り扱われるのでしょうか。

賃上げ促進税には、令和6年度の税制改正で繰越制度が導入されました。

賃上げを行った事業年度で控除しきれなかった税額(=控除限度額を超過した部分)があれば、その超過額を最大5年間繰り越せるようになっています。

この限度額を超えた部分を繰り越せるかどうかは、制度ごとに異なるため注意が必要です。

賃上げ税制とは異なり、例えば研究開発税制や中小企業投資促進税制は繰越期間が1年間のみとなっています。

これらの繰越期間中に使用できなかった控除額は切り捨てとなってしまいます。

複数の税額控除を併用する場合の限度額の考え方

複数の税額控除制度を同時に使う場合、限度額はどのように考えればよいのでしょうか。

例として、中小企業投資促進税制と賃上げ税制を併用するケースを見てみましょう。

中小企業投資促進税制の控除限度額は税額の20%、賃上げ税制も同じく税額の20%と定められています。

ここで重要なのは、それぞれの制度の限度額は独立しているという点です。

つまり、一方で20%、もう一方で20%を適用できるため、合計で最大40%まで利用可能となります。

たとえば、法人税額が100万円の場合、

  • 中小企業投資促進税制の上限:20万円
  • 賃上げ税制の上限:20万円
    となり、それぞれで計算した控除額を当てはめることになります。

仮に、中小企業投資促進税制で計算上30万円の控除額が出て、賃上げ税制で10万円の控除額があるとすると、実際に使えるのは以下のようになります。

  • 中小企業投資促進税制:20万円(上限により)
  • 賃上げ税制:10万円
    合計:30万円

このように、複数の制度を組み合わせれば最大40%まで控除可能ですが、あくまでそれぞれの制度で定められた限度額の範囲内で計算されるという点を押さえておくことが大切です。

複数税額控除のもう一つの上限

複数の税額控除を適用する際に、もう一つ重要なルールがあります。

それは、租税特別措置法に規定される一定の税額控除の合計額はその年の事業所得に係る所得税額(または法人税額)の90%が上限となるというものです。

税額控除には上記の他にも試験研究費にかかるものや経営力控除に資する投資にかかるものなど様々なものがあり、これらを多く適用する場合に時として税額以上の控除額となることがあります。

これは、各税額控除の限度額とは別に設けられた、すべての税額控除を合計した際の総額の限度額です。

例えば、法人税額が100万円で、複数の税額控除を合算した金額が95万円だった場合、実際に控除できるのは90万円(100万円 × 90%)までとなります。

この場合、5万円は控除しきれず、その年の納税額は10万円となります。

控除しきれなかった5万円については、制度ごとに繰越の可否が異なりますが、繰越期間が長いものから構成されることになります。

まとめ

事業主にとって、税額控除は重要な節税手段です。

しかし、各控除には個別の限度額があり、複数併用時は税額の90%という総額制限も存在し、限度額を超過した場合の繰越期間も制度により異なります。

複数の税額控除を最大限活用するには、各制度の限度額計算や繰越規定を正しく理解し、戦略的に適用することが不可欠です。

税額控除の効果的な活用方法についてお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。

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