サラリーマンの確定申告~給与所得者の特定支出控除を使いこなすためのポイント~

サラリーマンの方にとって、所得税の計算は会社の年末調整で完結するのが一般的です。

しかし、職務に関わる多額の自己負担がある場合には、特定支出控除という制度を利用することで、納めすぎた税金の還付を受けられる可能性があります。

この制度は、言わば会社員の必要経費を実費で認める仕組みですが、適用の条件や計算方法には非常に細かいルールが存在します。

今回は、給与所得者の特定支出控除の制度の基本から実務上の注意点まで詳しく紐解いていきます。

制度の仕組みと計算の基本

特定支出控除とは、給与所得者の職務遂行に必要な支出が、給与所得控除額の半分を超える場合に、その超過分を所得から差し引ける制度です。

通常は概算経費である給与所得控除で済みますが、多額の自己負担がある際の実態を反映させる救済措置と言えます。

具体的には、その年中の特定支出の合計から、給与所得控除額の2分の1を引いた金額を、給与所得の金額からさらに控除できます。

注意が必要なのは、会社から経費として補填され、かつ所得税がかからない部分は対象から除かれるという点です。

代表的なものとして会社から支給される通勤手当がこれに当たります。

あくまでも、個人の財布から持ち出した純粋な自己負担額が対象となります。

また、年末に支払った費用であっても、翌年以降の役務に対するものはその年の控除対象に含まれないため、支出のタイミングと役務の提供時期を正確に把握しておく必要があります。

この控除を受けるには確定申告が必要となり、会社側も証明書を発行する等の協力が求められるため、組織全体で制度を正しく理解しておくことが大切です。

対象となる支出

スキルアップを支える研修費と資格取得費

特定支出の中でも、個人の能力向上に直結するのが研修費と資格取得費です。

研修費とは、職務に直接必要な技術や知識を習得するための講座受講料などを指し、会場への交通費も含まれます。

一方、資格取得費は、弁護士や公認会計士、税理士といった国家資格から、業務に不可欠な各種技能検定まで幅広く対象となり得ます。

試験に合格できなかった場合であっても、その取得のために費やした学習費用自体は特定支出として認められます。

ただし、これらの支出が職務に直接必要であることを、給与の支払者(会社)が証明しなければなりません。

また、キャリアコンサルタントによる相談費用も、その後の研修受講と一体的であれば対象に含まれる場合があります。

このように、従業員が主体的に学ぶ姿勢を税制面からも後押しできる仕組みとなっていますが、対象となる資格の種類やスクールの形態によっては、適用外となるケースもあるため注意が必要です。

昨今のリスキリング需要の高まりを受け、自己研鑽を検討している方は十分検討の余地があると思います。

物理的な移動を伴う通勤費・旅費・転居費

業務に伴う移動のコストも、特定支出に該当します。

通勤費は、最も経済的かつ合理的と認められる経路と方法によるものが対象で、公共交通機関の運賃や、自家用車を利用する場合の燃料費、有料道路代が該当します。(会社から受けた通勤手当部分を除く)

ただし、新幹線のグリーン料金のような特別車両料金は、原則として対象外です。

また、出張などで勤務地を離れる際の職務上の旅費や、転勤に伴う転居費も含まれます。

転居費については、引っ越し業者への支払いや梱包材料費は認められますが、新居の壁の塗り替えなどのリフォーム費用は認められません。

さらに、単身赴任の方が自宅へ帰るための帰宅旅費も認められており、これは離れて暮らす家族との交流を維持するための支出を考慮した制度設計と言えるでしょう。

これらの移動費用については、1回の支出が1万5千円を超える場合には、搭乗証明書などの厳格な証明が求められることがありますので、日々の領収書管理を徹底しましょう。

会社側は、どの範囲までが合理的かという社内基準を明確にし、従業員が迷わず申請できる環境を整えておくことが望ましいでしょう。

仕事の質を高める勤務必要経費

図書費、衣服費、交際費等の3つは勤務必要経費と呼ばれ、合計で65万円という上限枠が設けられています。

図書費には、専門書や業界紙だけでなく、職務に関連する電子版の購読料も含まれますが、閲覧用のパソコン購入代金は対象外です。

衣服費は、制服や作業服のほか、勤務場所での着用が慣行となっているスーツ(背広)の購入費用も対象になり得ます。

ただし、いわゆる私服については、職務への直接的な必要性が認められにくいため、対象外とされるのが一般的です。

交際費等は、取引先への接待や贈答にかかる費用を指しますが、職場の同僚との親睦会や慶弔費、労働組合費などは含まれません。

これらは会社員にとって最も身近な支出でありながら、個人の嗜好によるものか業務上の必要性によるものかの線引きが難しいため、会社側の証明基準を明確にしておくことが、トラブルを防ぐ鍵となります。

実務上の留意点

専門学校などの2年制の授業料をまとめて支払った場合、支払った年に全額を控除することはできず、原則としてそれぞれの年に対応する部分に按分して計算しなければなりません。

また、ハローワークから支給される教育訓練給付金などがある場合は、その金額を差し引いた後の実質的な自己負担額のみが対象となります。

会社からの補填金についても同様で、もし確定申告の時期までに補填額が確定していない場合は、見込額で計算し、後日差異が生じたら修正申告等を行うことになります。

資格取得に関しては、法科大学院(ロースクール)の費用は認められますが、公認会計士試験におけるアカウンティングスクールの授業料や税理士試験における免除のみを目的とした修士課程の費用などは認めらません。

実際の現場では、図書の内容が職務に直接関連するか、衣服が単なる私用兼用ではないか等、判断に迷うことが少なくありません。

適用を検討する際は、一つひとつの支出が職務遂行に直接必要かという原点に立ち返って検討しましょう。

まとめ

特定支出控除は、制度の内容が多岐にわたり、会社側の証明作業も発生するため、一見するとハードルが高く感じられるかもしれません。

しかし、正しく理解して運用すれば、従業員の自己研鑽を促し、結果として企業の実力を底上げする有用な制度となります。

当事務所では、顧問契約をご検討中の方を対象に初回面談を無料で実施していますので、本制度の導入支援やより詳細な実務判断にお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

\ 最新情報をチェック /