非上場株式の譲渡でみなし配当を回避!相続後の納税資金対策にも役立つ金庫株特例

オーナー企業の事業承継や相続対策を進める中で、非上場株式の取り扱いは非常に重要なテーマです。
特に、相続で非上場株式を取得したものの、相続税の金額が高額になった場合の納税資金の確保や遺産分割のために発行会社にその株式を買い取ってもらうケースは少なくありません。
しかし非上場株式の発行会社への売却は、思わぬ高額な税金が課されるリスクがあります。
今回は、このリスクを回避し、税負担を大幅に軽減できるみなし配当課税の特例について解説します。
目次
非上場株式を譲渡した場合の取り扱い
株式の譲渡で税金が発生する場合、大きく分けて譲渡所得課税とみなし配当課税(総合課税)の2種類があり、適用される税率が全く異なります。
この税率の違いこそが、特例の重要性を理解する鍵となります。
通常の株式譲渡(第三者への売却など)
- 譲渡所得課税が適用されます。
- 税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて一律20.315%(分離課税)です。
発行会社への譲渡(みなし配当が生じる場合)
- みなし配当の部分は配当所得として総合課税が適用されます。
- 個人の所得税の税率は、他の所得と合算されるため、所得に応じて累進税率が適用され、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて最高で55.945%にも上ります。
この税率差を比較すると、みなし配当課税されるよりも、全額が譲渡所得として分離課税された方が、特に所得の多い方にとっては圧倒的に有利になることがわかります。
しかし、株式を発行会社へ譲渡する場合、原則として次に説明するみなし配当課税が発生してしまうため、大きな税負担が生じるリスクがあるのです。
株式を発行会社に譲渡すると発生するみなし配当課税とは
個人株主が保有する株式を、その発行会社自身に買い取ってもらうこと(発行会社にとってみれば自己株式の取得)は、経営権の集約や、株主の退社時の精算などでよく行われます。
しかし、この取引は税務上、普通の第三者への売却とは異なる取り扱いになります。
なぜなら、会社が株主に支払う対価のうち、資本金に相当する部分を超える金額は、実質的に会社の利益の分配、つまり配当とみなされるからです。
これが「みなし配当」と呼ばれるものです。
具体的には、発行会社から受け取った金銭等の総額から、その株式に対応する資本金等の額を差し引いた差額がみなし配当となります。
このみなし配当は、配当所得として総合課税の対象とされ、給与所得など他の所得と合算して税金が計算されます。
特に評価額が高額になる非上場企業の場合、長年の内部留保によって会社の利益積立金が多額になっているケースが多いため、みなし配当の金額が非常に高額になりやすく、その結果、高額な税率が適用されてしまうリスクがあるのです。
いかにみなし配当課税を回避し、全額を譲渡所得課税の対象とするかは、手取り額を最大化するための最重要課題です。
この課題を解決するために用意されているのが、次のみなし配当課税の特例なのです。
相続で取得した非上場株式を譲渡した場合の特例の概要と適用要件
相続財産として取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合、税負担の軽減措置として『相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例』が設けられています。
この特例の最大のポイントは、通常はみなし配当として総合課税される部分も含めて、譲渡対価の全額を「非上場株式の譲渡所得」の収入金額とすることができる点です。
これにより、前述の通り、税率が一律20.315%の分離課税で済むようになり、高額な累進課税を回避できるというわけです。
特例を適用するための主な要件は以下の通りです:
- 譲渡者
相続または遺贈により財産を取得し、その相続について相続税を納付すべき人であること。 - 対象株式
相続税の課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式であること。 - 譲渡期限
相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(つまり、最長で相続開始の翌日から3年10ヶ月以内)に譲渡すること。 - 手続き
譲渡する日までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を、発行会社を通じて税務署長に提出すること。
これらの要件を満たすことが、特例適用への第一歩となります。
特例を適用することの税務上の具体的なメリット
この特例を適用することによる税務上のメリットは、高額な累進課税を回避できるというものに加えて、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例も同時に受けられる点も見逃せません。
① 全額譲渡所得課税による税率の軽減
前述の通り、通常最高55.945%の税率で課税されうる配当所得部分が、一律20.315%の譲渡所得として分離課税されます。
これにより、特に高額な譲渡対価を受け取るケースでは、数千万円単位で税負担が軽減される可能性があり、手取り額が大きく増えます。
② 取得費加算特例との併用が可能
さらにこの特例は、取得費加算特例と併用することができます。
この特例は、相続で取得した財産を一定期間内に譲渡した場合、納めた相続税額のうち、その譲渡した株式に対応する部分の金額を、譲渡所得の取得費に加算できるというものです。
譲渡所得は「譲渡収入-(取得費+譲渡費用)」で計算されます。
取得費が増えるということは、その分譲渡所得が減り、結果として課税される税金がさらに少なくなることを意味します。
このダブルの特例活用により、税負担を最小限に抑えることができるのです。
特例を適用するために必要な手続きと注意点
非常にメリットの大きい特例ですが、適用を受けるためには上記の適用要件と手続きの遵守が必要です。
少しでも間違えると特例が適用されず、高額なみなし配当課税を受けてしまう可能性があるため、細心の注意を払わなければなりません。
【最も重要な手続き】
- 届出書の提出期限:
株式を発行会社に譲渡する日までに、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、発行会社を経由して所轄税務署長に提出してもらう必要があります。
この期限を過ぎると特例は適用できませんので注意が必要です。
【申告に関する手続き】
- 確定申告
特例を受けるには確定申告が必要です。
確定申告書には、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」や「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」などの添付が求められます。
【その他の注意点】
- 3年10ヶ月の期限
譲渡期限(相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内)に気を付けましょう。
まとめ
相続で取得した非上場株式を発行会社に譲渡する際、通常発生するみなし配当課税は、累進課税により極めて高い税率になるリスクを伴います。
しかし、みなし配当課税の特例を適用し、かつ相続税の取得費加算の特例を併用することで、税負担を大幅に軽減し、実質的な納税資金対策として活用することが可能です。
この特例には届出書や譲渡の期限が定められています。
非上場株式の譲渡を検討されている方は、最適な方法をご提案し、円滑な手続きをサポートいたしますので、ぜひお早めにご相談ください。


