合同会社の設立で後悔しないために知っておくべき5つのこと

近年、個人事業主が法人化する際に、設立手続きの簡便さやコスト面から合同会社を選択するケースが増えています。
しかし、株式会社との違いを十分に理解せずに設立し、後になって「こんなはずではなかった」と後悔するケースも少なくありません。
今回は合同会社設立前に必ず知っておくべき株式会社と異なる5つの重要ポイントについて解説します。
設立手続き
合同会社の大きな魅力の一つは、設立手続きの簡便さや費用の安さです。
株式会社では定款作成後に公証人による認証が必要となり、これには認証手数料と収入印紙代で約3~5万円のコストがかかります。
一方、合同会社では公証人による定款認証が不要であるため、この費用を節約できます。
登録免許税においても株式会社と合同会社では金額に相違がありますので、設立費用の合計で10万円以上の差が出ることになります。
項目 | 合同会社 | 株式会社 | 備考 |
定款作成 | 電子定款:0円 紙定款:4万円(印紙代) | 電子定款:0円 紙定款:4万円(印紙代) | 電子定款の場合は印紙代が不要 |
定款認証手数料 | 不要 | 約3万円~5万円 | 株式会社のみ必要 資本金の額によって変動 |
登録免許税 | 資本金額×0.7%(最低6万円) | 資本金額×0.7%(最低15万円) | 株式会社は資本金の額によって変動し、最低15万円。合同会社は一律6万円 |
その他費用 | 印鑑作成費用:約5千円~3万円 | 印鑑作成費用:約5千円~3万円 | 代表者印、銀行印など |
合計(概算) | 約6.5万円~ | 約18.5万円~ | 上記はあくまで目安であり、司法書士等に依頼する場合は別途費用が発生 |
また、合同会社は原則として社員(出資者)全員が業務執行社員となるため、取締役会や監査役などの機関設計を考える必要がなく、シンプルな組織体制で運営できます。
特に個人事業主が一人で法人成りする場合、意思決定の迅速性という点でメリットがあります。
ただし、将来的に事業拡大や資金調達を考える場合は注意が必要です。
株式会社と比較すると、合同会社は一般的な認知度や信頼性の面でやや劣る場合があり、取引先によっては株式会社を選好するケースもあります。
設立の手軽さだけでなく、将来のビジネスプランを考慮した上で法人形態を選択しましょう。
役員
合同会社では、原則としてすべての社員(出資者)が業務執行権を持ちます。
これは株式会社における株主と取締役の役割が合同会社では基本的に一体化しているためです。
ただし、定款で特定の社員のみを業務執行社員として選定することも可能です。
この点で注意すべきは、複数の社員がいる場合の意思決定の仕組みです。
合同会社では、原則として社員全員の同意や業務執行役員の過半数の決定が必要となるため、意見が分かれた場合に運営が滞る可能性があります。
そのため、定款で業務執行に関する決定方法を明確に定めておくことが重要です。
その他、社員(役員)が競合他社の取締役となる場合や利益相反取引を行う場合、任期は下記のような違いがあります。
合同会社 | 株式会社 | |
競合他社の取締役等となる場合 | 他の社員の全員の承認が必要 | 特段の手続きは必要なし |
利益相反取引 | 他の社員の過半数の承認が必要 | 株主総会(取締役会)の承認が必要 |
任期 | 制限なし | 選任後2年以内(一定の場合は10年まで伸長可) |
出資
責任と利益配分
合同会社と株式会社はともに有限責任制を採用しており、出資者は出資額を限度とした責任を負います。
しかし、両者の持分(出資持分と株式)の性質には大きな違いがあります。
合同会社の特徴的な点は、定款自治の範囲が広いことです。
出資比率と利益分配比率を別々に定めることができ、社員間の合意があれば柔軟な利益配分が可能です。
例えば出資比率が9:1でも、業務への貢献度に応じて利益分配を1:9と定款で定めることもできますが、贈与税等の課税関係が生じる可能性がありますので注意が必要です。
退社について
合同会社には社員が持ち分の払い戻しを受けて社員でなくなることを退社といいます。
株式会社には退社の概念はありませんが、出資の払い戻しを受ける制度として自己株式の取得があります。
合同会社では社員の退社について主に「任意退社」と「法定退社」、持分の差押債権者による「強制退社」などもあります。
任意退社は社員の意思による退社であり、法定退社は死亡や破産などの事由による退社です。
退社する社員は原則として持分の払い戻しを受けることができますが、この点が株式会社における株式譲渡と大きく異なります。
決算公告
合同会社と株式会社の大きな違いの一つが、決算公告の義務の有無です。
株式会社では、会社法の規定により決算公告を行う義務がありますが、合同会社にはこの義務がありません。
決算公告とは、貸借対照表(または要旨)を公告することで、債権者保護の観点から会社の財務状況を広く開示するものです。
株式会社では、官報や日刊新聞紙への掲載、自社ウェブサイトでの公開などの方法で行わなければなりません。
これには費用と手間がかかりますが、合同会社ではこの手続きが不要です。
ただし、情報開示義務が少ないということは、外部からの信頼性の観点ではマイナスに働く可能性もあります。
特に、取引先や金融機関との関係構築において、自主的な情報開示の姿勢が求められる場合もあるでしょう。
また、資金調達の観点からも、株式会社は株式発行や社債発行などの選択肢が多様である一方、合同会社では基本的に社員からの追加出資や金融機関からの借入れが中心となります。
事業計画に応じた適切な法人形態を選択することが重要です。
注意点
唯一の社員が死亡し、社員が不在となった場合
社員が一人しかいない合同会社の唯一の社員が退社した場合、社員が不在の状態となります。
社員が不在となるとその合同会社は解散しなければなりません。
しかし定款に社員が死亡した際に相続人が持ち分を承継する旨の定めておけば存続することは可能ですので、会社を存続させたい場合は定款に社員が死亡した場合の定めを記載しておきましょう。
また社員が不在となり解散する場合には清算人を定めなければなりませんが、定款で清算人を定めていない限り裁判所に清算人の選任を請求する必要があります。
他に社員がいる状態での解散と比べて時間や費用がかかりますので、清算人を定めておくか相続人による承継を可能にしておいた方が柔軟な対応ができるでしょう。
死亡退職の際の課税関係
合同会社の社員が死亡した場合の課税関係は、株式会社の株主が死亡した場合と比較して複雑な面があります。
合同会社の社員が死亡すると、原則として「法定退社」となり、相続人は出資持分の払戻し請求権を相続することになります。
この払戻し額が資本金等の額のうち出資に対応する部分の金額を上回る場合、その差額には「みなし配当」課税が適用されます。
具体的には、(払戻し額 – 出資に対応する金額)の部分が配当所得として課税対象となります。
払戻額からみなし配当の金額を控除した金額については譲渡所得とされます。
また、相続税における出資持分の評価方法も重要な問題です。
前述のとおり定款で相続による承継が規定されていない場合は払い戻し請求権での評価からみなし配当に係る源泉所得税の額を控除した金額となります。
一方、定款で規定されている場合は株式に準じた評価となります。
株式会社の場合、非上場株式の評価方法が財産評価基本通達で定められていますが、合同会社の出資持分の評価方法は株式会社のそれとは異なりますので注意が必要です。
まとめ
合同会社は設立の手軽さや運営の柔軟性から魅力的な選択肢ですが、株式会社との違いを正しく理解した上で選択することが重要です。
特に、業務執行の仕組み、出資持分の取扱い、社員の退社や死亡時の対応については、事前に専門家と相談し、定款で明確に定めておくことをお勧めします。
法人形態の選択は事業の将来性や成長戦略に大きく関わるため、目先のコスト削減だけでなく、長期的な視点での判断が必要です。
筒井会計事務所では法人成り検討のご相談も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。