「公平な社会」を実現するための仕組み? 所得税・相続税・贈与税で使われる累進課税とは

つい先日まで「1億円の壁」という言葉をメディアでよく見かけていました。
これは、所得が1億円を超えるあたりから、税金の負担率が相対的に低く見えてしまうという、税の公平性に関わる問題です。
本来、日本の税制の基礎にあるのは、所得が高い人ほど税負担率が上昇する累進課税という考え方です。
この原則が一部の高所得者層で機能していないのではないか、ということで2025年からはタックスミニマム課税(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)も施行されるなど、税制は常に変化しています。
今回は、この累進課税の仕組みについて解説します。
累進課税の概要
「累進課税」って聞くと、ちょっと難しそうに感じますよね。
簡単に言えば、「所得や財産が多くなればなるほど、適用される税率も段階的に高くなっていく」という仕組みのことです。
まるで、ゲームのレベルアップみたいに、ステージが上がると必要な経験値(課せられる税金のパーセンテージ(税率))も上がっていくイメージです。
この制度の最大の目的は、税の公平性を確保することにあり、納税者の「担税力」(税金を負担する能力)に応じて公平な税負担を実現するための仕組みです。
担税力の高い人にはより高い税率を、担税力の低い人にはより低い税率を適用することで、経済的な負担のバランスを図っています。
具体的には、課税対象となる金額(課税標準)をいくつかの段階(税率区分)に分け、それぞれの段階に応じて異なる税率が設定されています。
例えば、日本の所得税では、最低税率5%から最高税率45%まで、7段階の税率が設けられています。
この累進課税で採用されているのは、「超過累進税率」という方式です。
これは、たとえば「所得が330万円を超えた部分」だけに高い税率を適用し、330万円までの部分には低い税率を適用するという、段階的に税率が上がっていくやり方です。
この計算を簡単にするために、税率表には必ず「控除額」がセットで記載されています。
本来、超過累進税率で正確な税額を計算するには、各段階の所得ごとに税率を掛けて足し合わせるという、非常に煩雑な作業が必要になります。
しかし、この控除額を使うことで、最高税率(その階層の税率)を課税標準全体に一律に掛けた後、この控除額を引くだけで、簡単に税額を求めることができるようになるんです。
所得税の累進課税
私たちが日々の生活で一番身近に感じる累進課税といえば、やはり所得税でしょう。
所得税は、まさしくこの累進課税の代表例となり、先ほども触れた通り、課税される所得金額(給与から控除などを引いた額)に応じて、税率が段階的に変わります。
所得が上がれば上がるほど、その増えた部分に対して高い税率が適用されるんです。
所得税の税率は、以下の表の通り、7段階に分かれています。(※この税率に加えて、復興特別所得税や住民税も課されます)
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
| 195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万円以上 330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円以上 695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円以上 900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円以上 1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円以上 4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
例えば、年収500万円のAさんと年収2,000万円のBさんを比較してみましょう。
計算を簡便にするために基礎控除以外の所得控除は加味しないで計算するとAさんの所得税は約19万円となり、Bさんの所得税は440万円程度になります。
BさんはAさんの4倍の年収ですが、所得税の負担は4倍どころではなく、はるかに大きな割合を占めることになります。
これは、Bさんの所得の高い部分には、Aさんには適用されない高額な税率が適用されているからです。
この仕組みは、「担税力(税金を負担する能力)」に応じた負担を求めるという理念に基づいています。
しかし、最高税率45%(住民税と合わせると実質約55%)という水準は、国際的に見ても非常に高いものです。
この過重な負担が、一部の高所得層にとって担税力の限界を超え、労働意欲や投資意欲を削いでいるのではないかという指摘も少なくありません。
相続税の累進課税
個人の資産移転に関わる税金にも、累進課税は適用されていて、その一つが、相続税です。
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を引き継ぐときにかかる税金です。
この税金の計算においても、財産を多く受け取る人ほど、税率が高くなる仕組みになっています。
相続税の税率は、以下の表の通り、課税対象となる金額(法定相続分に応じた取得金額)に応じて、段階的な税率が設定されています。
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
| 1,000万円以下 | 10% | 0円 |
| 1000万円超 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3000万円超 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5000万円超 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
ただし、相続税には基礎控除という非課税枠や、「配偶者控除」など様々な優遇措置があります。
そのため、多くの方が「相続税がかかるのでは?」と心配されますが、実際に課税されるのは全体の約1割程度に留まっています。
資産の多いご家庭にとっては、この累進課税の高さを考慮に入れた生前対策が非常に重要になってきます。
贈与税の累進課税
相続税と並んで個人の財産移転に関わる贈与税(暦年課税)も累進課税です。
贈与税は、生前に人から財産をもらったときにかかる税金ですが、これも「たくさん財産をもらう人には、たくさん税金を払ってもらおう」という理屈で、財産の多寡に応じて税率が段階的に上がります。
贈与税(暦年課税)の税率には、主に「特例贈与財産」(直系尊属からの贈与、例:親や祖父母から子や孫へ)と「一般贈与財産」(それ以外の贈与)の2つの税率体系があります。
どちらも累進課税ですが、特例贈与財産の方が、一般的により緩やかな税率に設定されています。
各税率ごとの控除額を含めた表は以下の通りです。
【特例贈与財産用の税率表】
| 課税される贈与金額 | 税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | 0円 |
| 200万円超 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円超 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 600万円超 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1000万円超 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 1500万円超 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 3000万円超 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
【一般贈与財産用の税率表】
| 課税される贈与金額 | 税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | 0円 |
| 200万円超 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 300万円超 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 400万円超 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 600万円超 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1000万円超 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 1500万円超 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
(※課税される贈与金額=年間の贈与額から基礎控除110万円を差し引いた額)
贈与税の累進課税は、相続税と同様に富の集中を防ぐとともに、相続税の課税を逃れるために生前贈与が乱発されるのを防ぐという役割も担っています。
ただ、この贈与税には、年間110万円の基礎控除(非課税枠)や、相続時精算課税制度など、税負担を軽減したり、先送りしたりできる特例制度がいくつか用意されています。
まとめ
今回は、累進課税の仕組みを、所得税、相続税、贈与税の視点から掘り下げました。
所得や財産の増加に伴い税率が段階的に高くなるこの制度は、担税力に応じた公平な負担という重要な役割を担っています。
各区分に応じた税率をあらかじめ知っておくことで適切に税務計画を立て、必要に応じて節税対策を講じましょう。
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