DC改悪?~退職所得控除の仕組みと税制改正大綱の影響~

DCとは

そもそもDCとは何でしょうか。

「DC」とは「確定拠出年金(Defined Contribution Pension Plan)」の略です。

この制度は、企業や個人が定期的に拠出金を積み立て、将来の退職金として受け取る仕組みです。

企業が掛け金を拠出するタイプのDCを企業型DCといい、個人が拠出するタイプのDCをiDeCoといいます。

DCは日本の税制上の優遇措置を受けられる年金制度で3つのメリットがあると言われています。

原則60歳までは引き出すことはできないなど注意しなければならない点もありますが老後資金の資産形成にとって有用な税制として加入者も増えています。

①運用益の非課税

この制度は、個人が自身の将来の老後に備えて積立金を貯蓄・運用することを目的としておりその運用益は非課税となっています。

通常金融商品の運用益は約20%の所得税が課税されますが、非課税部分も再投資に回すことができるので複利効果が大きくなります。

②支払い時の所得控除

企業型DCの事業主掛金は給与とはみなされないため所得税などは課税されず、さらには社会保険料の対象にもなりません。

企業型DCのマッチング拠出やiDeCoに支払った金額は、全額所得税などの控除対象となり節税効果が期待できます。

節税額は年収などによって変わり所得税の税率の高い人(所得の多い人)ほど節税効果は高いものとなります。

③受取時の課税軽減

DCへ支払った資金の受け取り方法は、毎年分割して受け取るか、一時金として受け取るか2つの方法があります。

上記②により支払い時に全額所得控除されていますので、受取時には全額課税対象となるのが一般的ですがその受取時に一定の控除を設けることによって税負担の軽減が図られています。

毎年分割で受け取る際は公的年金控除として一定額の控除を受けたうえで課税され、一時金として受け取る場合は退職金と同様の課税方法がとられます。

今回税制改正大綱で改正の対象となったのは一時金として受け取る際の課税方法の見直しですので退職金の課税方法について解説します。

退職金に対する税金の計算

退職金に対する所得税や住民税は大きく分けて2段階の計算となります。

  1. 退職所得金額を計算する
  2. 適用される税率を求め税額を計算する

退職所得金額

退職所得金額=(退職金の金額-退職所得控除額)÷2

退職所得控除額は勤続年数によって下記により計算されます。

  1. 勤続年数が20年以下の場合・・・勤続年数×40万円
  2. 勤続年数が20年超の場合・・・800万円+勤続年数×70万円

退職金の金額<退職所得控除額となった場合には退職所得金額は0円となるため退職金に係る税額は発生しません。

勤続年数が5年以下の役員や従業員に対する退職金については『÷2』部分の取り扱いが変更になる場合がありますので注意が必要です。

退職金に対する所得税

退職金に対する所得税=退職所得の金額×累進税率

退職金に対する所得税は給与や配当といった所得の合計額に対する課税(総合課税)とは別に退職所得に対してのみ累進税率を適用して課税(分離課税)しますので、退職所得に対しても低い税率の適用がありこの点でも有利な税制となっています。

ただ上記の取り扱いは退職所得の受給に関する申告書(住民税では退職所得申告書)を勤務先に提出している方が対象になり、その提出のない方は一律支給額の20.42%の所得税及び復興特別所得税が徴収されます。

退職金に対する住民税

退職金に対する住民税=退職所得の金額×{6%(都道府県分)+4%(市町村分)}

住民税に関しては退職所得申告書の提出の有無にかかわらず上記の取り扱いとなります。

退職所得控除の特例

退職所得として取り扱われる一時金については勤務先より退職時に受け取る一時金の他に下記のようなものがあります。

  • 社会保険制度に基づく退職一時金等
  • 小規模共済契約に基づいて支給される一定の共済金、解約手当金
  • 中小企業退職金共済法の規定により支給する退職金
  • 解雇予告手当 など

このように様々な一時金が退職所得として取り扱われ、その都度退職所得控除の金額を計算すると勤務年数の重複期間が生じることから退職金の受給年の前年以前4年内(DC一時金の場合は受給年の前年以前19年内)に他の退職金の受給があった場合には退職所得控除額の計算上、重複期間を勤務年数から控除して退職所得控除額の調整を行う規定があります。

今回の税制改正大綱の影響

今回の改正の内容は以前の税制改正要望で簡単にご紹介したものです。

DC以外の退職金の受給→DC一時金の受給の順番で退職金を受け取ると19年遡ることになりたいていの場合退職所得金額の調整の対象となっていました。

しかしDC一時金を先に受給する場合、DC一時金は60歳から受け取ることができますので、定年の引き上げなどが進み勤務先からの退職金の受給時期が遅くなることで上記の調整規定の対象外となるケースが増えたことを背景にして課税の公平を保つ観点から今回の改正への運びとなりました。

今回の改正案ではDC一時金を先に受給しており、その後に退職金を受給している場合の調整期間が4年から9年に延長されました。

そのため60歳でDC一時金を受給する場合、それぞれの退職所得控除額の調整計算を受けないためには70歳以降に退職金を受給する必要が出てきます。

ただ退職所得控除額を使い切るケースは多くなく、仮に受給額が退職所得控除額を上回ったとしても所得金額を半分にしてくれますので今回の改正による影響は限定的ではないかと考えています。

税負担が重いものになりそうな場合は、分割(年金形式)での受給を検討し公的年金控除を活用するなど受け取り時の課税方法を工夫するのもよいでしょう。

まとめ

DCは基本脱退できない(60歳まで原則引き出し不能)ので今回の改正のように後から制度内容を変更すると制度への信頼性が揺らぐのではないかと思います。

とはいえ有用な制度であることには依然変わりないので、中小企業の経営者の方や個人事業主の方は小規模企業共済など他の制度もうまく活用しながら老後の資産形成に活かしましょう。

筒井会計事務所では退職金準備のご相談も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

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