後から出し直してもリカバリーできない?当初申告要件で損しないコツ

「当初申告要件って、聞いたことはあるけど中身はイマイチ…」そんな声をよく耳にします。
実はこのルール、住宅ローン控除やマイホーム売却の3,000万円控除など、節税効果の大きい特例に付されている要件の一つだったりします。
最初の申告で適用し忘れると更正の請求でも挽回できず、後悔一直線――。
今回は当初申告要件を解説しますので、損しない申告のツボを押さえてください。
目次
当初申告要件とは
当初申告要件とは、特例や控除を使いたい人は最初の確定申告でその意思をきちんと示してね、という法律上のルールです。
ここでいう「当初」とは“第1回目”の申告を指し、申告書に一定事項の記載や必要書類の添付をすることが求められます。
提出日が期限後であっても、それが最初の申告であれば「当初申告」として認められる点は意外と知られていません。
この要件は「期限内申告要件」と混同しやすいですが、実際には別物です。
期限内申告要件は“期限内に申告すること”が条件ですが、当初申告要件は“最初の申告で意思表示すること”が条件。
たとえば、初回申告で控除額の記載や添付書類を忘れた場合、更正の請求や修正申告で後から取り返すことは原則できません。
この厳格さは納税者泣かせですが、逆に言えば最初の準備さえ抜かりなければ大きな節税メリットを逃さずに済みます。
なお、法人税の一部制度では平成23年12月改正で当初申告要件が廃止されたものもありますが、所得税や譲渡所得、住宅ローン控除など、個人に関する主要な特例では今も当初申告要件が残っています。
更正の請求は万能ではない
確定申告のやり直しといえば“更正の請求”を思い浮かべる人が多いですが、当初申告要件が絡む特例についてはこの救済策が効きません。
更正の請求は各税法に則って税金を計算していなかったり、計算に誤りがあって、本来納付すべき金額より多く納付してしまったため還付を受けるための手続きで、原則として申告期限から5年以内なら可能です。
しかし、当初申告要件がある特例の適用をしなかっただけで、当初の申告に不備が無い場合はこの更正の請求を行うことができません。
納税者が選択できる申告制度についても後から更正の請求を行うことができない点で当初申告要件と似ています。
例えば上場株式に係る配当は総合課税での申告、申告分離課税での申告、申告不要制度のどれかを選択できますが、一度ある方法を選択して申告した後に別の方法を適用して更正の請求を行うことは認められていません。
当初申告要件がある主な特例
住宅借入金等特別控除
マイホームをローンで買った後、年末調整などで控除を受けるには1年目に確定申告が必要ですがこの特例にも当初申告要件があります。
所定の計算明細書・登記事項証明書・残高証明書などを添付し、控除額を申告書にしっかり記入しましょう。
うっかり適用し忘れて確定申告してしまうと、後から更正の請求は効かず、初年度分がパアになる可能性が高いです。
この特例は最長13年にも及んで適用を受けられるので、どこかの年で適用を受けられなかったとしても次の年からは失念しないように気を付けましょう。
居住用財産3,000万円特別控除
マイホームを売って譲渡益が出たとき、所得から最大3,000万円も差し引ける居住用財産の特例にも当初申告要件があります。
天災その他納税者本人の責めに帰すことができないような事情がある場合は『やむを得ない事情』に該当し更正の請求を行うことが認められることもありますが、単に適用を失念した場合などは更正の請求による救済は見込めないでしょう。
小規模宅地等の減額の特例
相続税対策の切り札とも言える小規模宅地等の特例は宅地の評価額を最大80%オフできる強力な減額制度です。
ただしこれにも当初申告要件があり、小規模宅地の特例を適用できるにもかかわらず当初申告で適用しなかった場合には、あとから適用して更正の請求を行うことはできません。
一方、ケースによっては更正の請求ができる場合があります。
相続人の間で分割がまとまらず未分割で当初申告をした場合に、『申告期限後3年以内の分割見込み書』を提出し、申告期限から3年以内に分割協議が完了したので分割協議確定後4か月以内に更正の請求を出すケースなどは小規模宅地の特例の適用が認められます。
取得費加算の特例
相続財産を売却する際に適用できる「取得費加算の特例」にも、当初申告要件が課されていることを見落としがちです。
この制度は、相続開始から3年10ヶ月以内に相続不動産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例です。
相続税を支払っている場合には、相続財産を売却した翌年の確定申告できちんと適用を受けましょう。
まとめ
当初申告要件は、最初の申告で勝負が決まる厳しめルールです。
住宅ローン控除・3,000万円控除・小規模宅地等の特例に加え、取得費加算の特例でも適用ミスが命取りになります。
「後で直せば」が通用しない世界だからこそ、事前の準備が最大の節税策となりますので余裕をもってご相談ください。