【不動産オーナー向け】居住用賃貸建物の仕入税額控除
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不動産オーナーの皆さんは賃貸マンションやアパートを取得した際の消費税で還付を受けられなくなったというのはすでにご存じのことかと思います。
令和2年度の税制改正以降、「居住用賃貸建物」の取得については、原則として仕入税額控除が制限されるようになりました。
これは、節税スキームの封じ込めを目的としたものですが、その適用範囲や判断基準は非常に複雑です。
今回は、居住用賃貸建物の仕入税額控除を解説します。
目次
仕入税額控除ができない「居住用賃貸建物」の定義と判断基準
消費税は、売上にかかる消費税(預かった消費税)から、仕入や経費にかかる消費税(支払った消費税)を差し引いて納める仕組みになっています。
つまり、「消費者から預かった税金」から「事業者自身が払った税金」を控除した残りを国に納めます。
この控除される消費税は、課税売上(事務所賃料、駐車場代など)を生むための課税仕入れ(建物購入費など)に限定されます。
住宅の貸付け(家賃収入)は非課税売上なので、これに対応する建物の取得に係る仕入税額については、消費税の納税額の計算上、基本的に控除できません。
しかし居住用賃貸アパート等を購入した年度に、自販機の売上や金の売買により課税売上を発生させることで、居住用賃貸アパート等に係る消費税を控除(還付)するケースが多く発生しました。
これにより居住用賃貸建物のうち一定のものについては仕入税額控除の対象としないこととなりました。
定義
居住用賃貸建物とは、その建物の大部分、または全体を、住居として人に貸し出し、家賃収入を得ることが目的である一定の建物です。
「住宅以外(事務所や店舗など)に使うことが客観的に明らか」でない限り居住用とみなされ、その内、税抜の購入費や建築費が1000万円以上のものをいいます。
「客観的に明らか」とは?
建物が「住宅の貸付け用に使用しないことが明らかな建物」に該当するかどうかが重要な判断のポイントです。
判断は建物の取得時点で行われますが、取得時に住宅の貸付の用に供しないことが明らかでない建物であっても、取得の日の属する課税期間の終了の日において住宅の貸付の用に供しないことが明らかとされたときは、居住用賃貸建物に該当しません。
建物の構造・設備の状況から判断して、浴室、キッチン、トイレなどの居住用の設備が整っていたとしても、契約書などで事務所用として使用することが将来にわたって確実と認められるものであれば居住用賃貸建物に該当しないことになります。
しかし購入後に一時的に事務所として使ったとしても、今後住宅としての使用の可能性を否定できない場合などは、住宅の貸付け用に使用しないことが明らかな建物と主張するのは難しいと思います。
例外
一方、下記のような建物は居住用賃貸建物に該当しないものとして消費税の控除の対象となります。
- 従業員に「無償」で貸し出す社宅や寮
従業員向けの社宅や寮であっても、当初より使用料を徴収しなければ建物の取得にかかった消費税は一定額が控除が可能です。
無償での貸付は消費税法で規定する「住宅の貸付」に該当しないため居住用賃貸建物に該当しないこととなりますが、別途所得税等の課税の可能性がありますので注意が必要です。 - 旅館やホテルなどの宿泊施設
建物がアパートやマンションのような構造(住宅の設備)を持っていても、旅館業として使用する目的が明らかな場合は、制限を受けません。
課税売上(宿泊料)を生むために取得した建物とみなされるため、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」に該当し、仕入税額控除が可能となります。
賃貸マンションの一室を自社事務所にする際の「合理的な区分」
居住用の賃貸マンションを新築または購入し、そのうち一部の部屋を自社の事務所や店舗など、課税売上を生む用途(課税賃貸用)に使うケースはよくあります。
この場合、建物全体としては「居住用賃貸建物」に該当し、全体が控除制限の対象になるのが原則です。
しかし、もし「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分」(事務所や店舗部分)と居住用賃貸部分とを、面積の割合などによって合理的に区分できれば、この限りではありません。
按分方法にはそれぞれの使用面積に対する建設原価の割合なども通達で例示されていますので状況によって使い分けましょう。
3年以内に売ったり用途変更する場合は調整計算
住宅の賃貸用に建物を購入した場合、通常は消費税の控除(仕入税額控除)を受けることができません。
しかし、購入から3年以内に次のようなことをした場合は、「調整計算」という手続きによって消費税の一部を控除できる可能性があります。
調整計算が必要になるケース:
- 建物を売却した場合
- 用途を変更した場合(例:住宅の賃貸 → 事務所の賃貸)
購入時には消費税の控除が受けられなくても、3年以内に売却や用途変更をすれば、その年度に一定額の消費税控除を受けられるようになります。
建物の消費税額の一部が控除の対象ですが、建物の消費税額は大きくなりがちですので、該当する場合は忘れずに申告しましょう。
注意点:
自社の事務所として使い始めた場合や、無償の社宅として使用した場合は、この調整計算の対象にはなりません。
まとめ
令和2年度改正で居住用賃貸建物の仕入税額控除が制限されましたが、実は控除を受けられるケースもあります。
建物の一部を事務所利用する場合の按分計算、3年以内の売却・用途変更時の調整計算などはその計算も複雑になり、居住用賃貸建物の判断も難しい部分があります。
不動産オーナー様の状況に応じた適切な税務処理をサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。