「海外の家族」は控除の対象になる?国外居住親族の扶養控除でミスをしないための実務ガイド

近年、日本で働く外国人就労者の数が過去最高を記録するなど、グローバル化の波は中小企業の経理実務にも大きく影響しています。
初めて外国人従業員を雇用する会社にとって、年末調整の際に注意しなければならないのが、国外に居住している親族の取り扱いです。
国内に住む親族とは異なり、国外に居住している親族を扶養控除の対象とするためには、特別な確認書類を提出してもらう必要があります。
今回は、国外居住親族に係る扶養控除の概要から、必要な書類、そして特に注意すべきポイントまでを解説していきます。
目次
制度の概要と扶養控除の対象となる親族の範囲
国外居住親族に係る扶養控除とは、日本に住む人(居住者)が、海外に住む親族(非居住者)に対して生活費や教育費などを送金し、生計を一にしている場合に、所得控除を受けられる制度です。
この控除の目的は、日本国外にいる親族を経済的に支援している居住者の税負担を軽減することにあります。
この制度が適用される「親族」の範囲は、所得税法上、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族と定められており、国内に住んでいる場合と同じです。
ただし、扶養控除の対象となる国外居住親族については、年齢や状況によって制限が設けられています。
まず、国内の扶養控除と同様に、年齢が16歳未満の親族は原則として扶養控除の対象外となります。
そして、16歳以上の親族についても、その年齢や状況によってさらに細かく分類されています。
- 16歳以上30歳未満の親族または70歳以上の親族は、特に制限なく控除の対象です(もちろん、所得要件や生計一要件を満たす必要はあります)。
- 30歳以上70歳未満の親族は、「留学している」「障害者である」「年間38万円以上の送金を受けている」といういずれかの要件を満たさなければ扶養控除の対象にはなりません。
30歳以上70歳未満の親族を扶養控除の対象にする場合には特に注意が必要になってきます。
国外居住親族に係る扶養控除の必要書類
国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受けるためには、原則として、給与等の支払者(会社)に対し、4種類の「確認書類」の提出または提示が必要です。
親族関係書類
国外居住親族が、控除を申告する居住者(従業員)の親族であることを証明するために必要になります。
具体的な内容としては戸籍の附票の写しや、外国の公的機関が発行した書類(出生証明書、婚姻証明書など)が該当します。
例えば、単なる運転免許証などの身分証明書だけでは、親族関係を証明できないため「親族関係書類」には該当しないことに注意が必要です。
親族関係書類が外国語で作成されている場合には、翻訳文の添付が義務付けられています。
送金関係書類
送金関係書類とは、居住者から国外居住親族へ、生活費または教育費に充てるための送金や支払が行われたことを証明するものです。
金融機関の書類(外国送金依頼書の控え、利用明細書など)や、クレジットカード会社が発行した書類(利用明細書)などが該当します。
原則として、その年に行った送金等すべての書類の提出または提示が必要です。
ハンドキャリーで生活費を渡している場合などは送金関係書類がないことになりますので扶養控除を適用することはできません。
上記2つの書類は、基本的にすべての国外居住親族の扶養控除等で必要となります。
また、障害者である非居住者の親族が16歳未満であっても、障害者控除の適用は受けられますので、その際にも親族関係書類や送金関係書類を提出してもらう必要があります。
留学ビザ等書類
30歳以上70歳未満で「留学」の要件で控除を受ける場合に、留学の在留資格に相当する資格をもって外国に在留していることを証明します。
具体的には、外国政府などが発行した査証(ビザ)に類する書類の写しや、在留カードに相当する書類の写しなどが必要になります。
38万円送金書類
30歳以上70歳未満で「38万円以上の支払」の要件で控除を受ける場合に、年間の支払合計額が38万円以上であることを明らかにする送金関係書類です。
送金関係書類と同様に、原則としてその年に送金等を行ったすべての書類を提出等する必要がありますが、一定の場合には書類を省略することもできます。
これらの書類は、親族の年齢や状況に応じて必要な組み合わせが変わってくるため、実務で対応する際は、従業員の方の申告内容をしっかりと確認し、漏れがないように書類を集める必要があります。
注意点
国外居住親族への送金や支払について
送金日(支払があった日)の判定
銀行送金の場合には居住者が金融機関で送金手続きを行った日(送金日)に、親族への支払があったものとされます。
年の末に送金手続きを行い、実際に親族の口座に入金されたのが翌年になったとしても、送金日がその年中であれば、その年の支払としてカウントして問題ありません。
邦貨(円)換算の方法
外貨建て送金の場合では、国外送金をした金融機関の、その送金日における電信売買相場の仲値によって円に換算するのが原則です。
一方、その年中に複数回送金している場合、その年最後の支払の日の電信売買相場の仲値または実際に適用された為替レートにより、合計額を一括で円に換算することができます。
クレジットカード利用の場合
国外居住親族がクレジットカードを利用し、その支払代金が居住者の銀行口座から引き落とされる場合、親族がカードを利用した日に支払があったものとされます。
カードの利用代金を円に換算する方法は、原則として、その利用があった日の電信売買相場の仲値で換算しますが、クレジットカードの利用代金が円に換算されて請求される場合は、実際に請求された円の額で換算することもできます。
留学期間が短い場合
留学ビザ等書類で確認する留学は、原則として1年以上の予定での留学を指します。
例えば、数ヶ月間の語学研修や短期旅行などは「留学」の要件には該当しません。
留学期間が短く、その扶養親族が国外居住親族に該当しない場合には、親族関係書類などの提示は必要ありません。
発行日が古い書類について
親族関係書類については、有効期限などの規定はないので、仮に1年以上前に発行されたものでも有効とされます。
ただし、結婚や離婚により親族関係に異動が生じることもありますので、書類提出時点で異動がないか確認することが重要です。
親族関係書類が旧姓で記載されている場合
結婚などにより氏名が変わっている場合、「親族関係書類」に旧姓で記載されていることがあります。
この場合、旧姓と現在の氏名とのつながりが公的に証明できる書類(例えば、旅券の写しなど)を併せて提示・提出し、現姓名と旧姓名の関係を明らかにする必要があります。
親族に応じて必要となる「親族関係書類」の組合せ
親族関係書類は、その親族が居住者とどのような関係にあるかを証明できなければなりません。
例えば、申告者の「子」の扶養を証明する場合、子の出生証明書などが必要になります。
兄弟姉妹の場合などは本人と父母の修正証明書のほかに父母と兄弟姉妹の出生証明も必要になりますので、自身と扶養親族との関係でどの親族関係書類が必要になるか事前に確認しましょう。
まとめ
国外居住親族に係る扶養控除は、適用要件が細かく、必要書類の確認作業も多岐にわたるため、特に慎重な対応が求められます。
税務調査などで問題にならないよう、親族関係書類の翻訳文や、年間送金総額を証明する書類の収集・管理を徹底することが、会社の経理担当者様や経営者様にとって重要です。
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