もう紙の山とはサヨナラ!年末調整電子化の仕組みとメリット

毎年、経理部門にとって大きな山場となる年末調整。
大量の申告書類の配布、回収、内容確認、そして保管は、多くの企業にとって避けて通れない重労働でした。
しかし、近年、政府のDX推進の流れを受けて、この作業は変わろうとしています。
年末調整の電子化は単に紙をデータに置き換えるだけでなく、業務を効率化し、コストを削減し、申告の正確性を高めます。
今回は、この電子化の具体的な内容と、中小企業がスムーズに導入・活用するためのポイントを解説していきます。
目次
内容
年末調整の電子化とは、従来、従業員が手書きで記入し、各種証明書を紙で添付して提出していた申告手続き全体を、データで完結させる仕組みです。
大きな違いは、生命保険料控除証明書などの控除証明書をデータ(XMLファイル)で取得できる点、そしてそのデータを利用して申告書もデータで作成・提出できる点にあります。
この手続きをサポートするのが、国税庁が無償提供する「年調ソフト」(年末調整控除申告書作成用ソフトウェア)です。
従業員はこのソフトを使って必要事項を入力し、控除額を自動計算させ、申告書データを簡単に作成できます。
作成されたデータは給与担当者に提出され、給与システムに取り込まれることで、手入力のミスや検算の手間をなくし、申告の正確性を大幅に向上させます。
勤務先(会社側)が享受できる4つの業務効率化メリット
勤務先が控除申告書等をデータで受け付けられる環境を整備する必要がありますが、年末調整の電子化は給与支払者である会社側に計り知れないメリットをもたらします。
まず第一に、「配布・回収作業の不要」です。
紙の申告書を印刷し、従業員全員に配り、期限までに回収するという、手間と時間がかかる作業から解放されます。
第二に、「チェック作業の大幅な削減」です。
紙の書類では、手書きの文字や計算の誤りがないか、添付書類が揃っているかを一件一件確認する必要がありましたが、データ提出ならシステムが自動で一次チェックを行うため、担当者の負担が大きく軽減されます。
第三に、「システムへの手入力が不要」になることです。
従業員が作成したデータはそのまま給与システムに取り込めるため、転記ミスがなくなり、入力業務がゼロになります。
そして第四に、「書類の保管スペースが不要」になる点も忘れてはなりません。
電子データで保存できるため、長期間にわたる紙のファイリングや倉庫の確保も必要なく、オフィススペースの有効活用につながります。
結果として、経理担当者はより戦略的な業務に時間を割けるようになるでしょう。
従業員側の手続きを簡略化するマイナポータル連携の仕組み
電子化の成否を握るのは、従業員側の手続きをいかに簡便にするかです。
従来の紙の手続きでは、保険会社などから郵送されてくる控除証明書を待ち、それを失くさないように管理し、申告書に添付する必要がありました。
これがマイナポータル連携を利用することによって一変します。
従業員は、マイナンバーカードを利用してマイナポータルと連携することで、保険会社や金融機関など複数の発行主体から送られてくる控除証明書等のデータを一括で取得できるようになります。
この取得したデータは「年調ソフト」に取り込むことができ、申告書の作成がほぼ自動で完了します。
証明書を待つ手間や、手書きでの計算・転記の手間がなくなるため、従業員にとっても利便性が向上し、テレワーク中の提出も容易になります。
マイナポータル連携を行うには従業員側で準備が必要になります。
準備するもの
マイナンバーカード、そして利用者証明用(数字4桁)と署名用(英数字6~16文字)の二種類のパスワードが必要です。
また、カードを読み取るためのスマートフォン、またはICカードリーダライタも欠かせません。
事前設定
従業員はマイナポータルにアクセスし、「利用者登録」を済ませた後、「年末調整の事前準備」というページに進みます。
案内に従って操作を進めることで、生命保険会社や金融機関、年金機構などとマイナポータルとの連携設定を完了させます。
特に国民年金保険料のデータ取得を希望する場合は、発行年の10月中旬までに「ねんきんネット」の利用登録と電子送付の登録手続きを済ませておく必要があります。
これらの準備を済ませて初めて、控除証明書データの一括取得が可能になります。
「完全電子化」か「部分電子化」か
年末調整の電子化を進める際、企業は「完全電子化」と「部分電子化」の二つの方法を検討することになります。
完全電子化は、従業員が控除証明書も申告書も全てデータで提出する方式で、最も効率化効果が高い方法です。
一方、部分電子化は、従業員側の準備状況や、利用している保険会社などの対応状況に応じて、一部の書類を紙で残し、申告書だけをデータで作成・提出するなど、一部だけを電子化する方式を指します。
自社に合った方法を選ぶには、まず現在利用している給与システムが電子化に対応しているか、そして従業員のITリテラシーを考慮に入れる必要があります。
特に、従業員全員がすぐにマイナポータル連携を利用するのが難しい場合は、例外的に紙での提出も認めるなど、柔軟な対応をあらかじめルール化しておくことが現実的です。
最初から全てをデジタル化しようと無理をするのではなく、まずは自社の環境に合わせてスモールスタートを切り、段階的に完全電子化へ移行していくことが結果的に完全電子化への近道となります。
まとめ
今回は、年末調整の電子化について解説いたしました。
年々複雑になっていく年末調整ですが、電子化することで少しでも正確性とスピードを両立させ、生産性を少しでも向上させることが重要です。
当事務所は、新しい制度への適切な対応や、経理体制に合わせた最適な電子化の設計をサポートしております。
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