失敗を逆手に取れ!株の譲渡損と配当の通算で節税マスターに

ある日、Aさんは証券口座の残高を見てため息をつきました。
最近売却した株式で大きな損失が出たのです。
しかし同時に受け取った配当金にはしっかり税金が引かれていることに気付き、「この損失と配当、何とか相殺できないのか?」と疑問を持ちました。
実は一定の条件を満たせば、譲渡損と配当を通算し税負担を軽減できる制度があります。
今回はこの仕組みをわかりやすく解説し、Aさんのような投資家が賢く節税する方法を紹介します。
目次
上場株式等の譲渡損の通算とは
株式の譲渡損
上場株式を証券会社等の金融商品取扱業者等を通じて売却し、損失が生じた場合には他の上場株式の譲渡益や上場株式の配当の所得と損益を通算することで税負担を軽減することができます。
譲渡損益は譲渡価格から株式の取得費を差し引いて計算します。
特定口座の場合は金融機関が取得費も把握しているため特に自分で計算する必要はありませんが一般口座の場合は自身で取得費を計算しなければなりません。
その際に取得費を先入先出法で計算することはできず、総平均法に準ずる方法で計算しなければならないため注意が必要です。
譲渡をした訳ではありませんが特定管理株式等について破産手続き開始決定などの事由が生じた場合には損失の金額とみなす特例もあります。
譲渡損の損益通算
源泉徴収口座で上場株式を譲渡した際も利益の金額の20.315%の税金が控除されていますので譲渡損失と通算すると税金の還付が生じます。
源泉徴収なしの特定口座での取引では利益が発生した際も源泉徴収されませんので、損失が計上されても税金の還付は生じません。
またNISA口座で生じた譲渡益については非課税とされていますので損益通算の対象にはなりません。
株式や投資信託などの投資商品を取引するための口座には特定口座と一般口座があり、下記のような特徴があります。
口座 | 源泉徴収 の有無 | 株式投信の収益分配金・ 公社債利子の受入れ | 年間損益の計算 | 確定申告 | 譲渡損と 配当の通算 |
特定口座 (源泉徴収口座) | 有 | 可 | 金融機関 | 原則不要 (口座毎に選択) | 有 |
特定口座 (簡易申告口座) | 無 | 不可 | 金融機関 | 必要 | 無 |
一般口座 | 無 | 不可 | 投資家個人 | 必要 | 無 |
上場株式を相対取引で売却したり、非上場株式を売却した場合などはこの損益通算の対象外となります。
通算できる配当
上場株式等の譲渡損失と相殺することができる配当等は上場株式等に係るものに限られます。
同一の源泉徴収口座でない配当と損益通算するには申告分離課税で確定申告されていることが要件となります。
詳しくは以前の記事をご確認ださい。
NISA口座で受け取っている配当はそもそも課税されていないので対象外となります。
通算される順序とタイミング
株式の譲渡損が生じた場合にまず最初に通算されるのが、同じ特定口座内で取引している株式の同一年の譲渡益となります。
特定口座では取引の都度それまでの譲渡損益と今回の取引の譲渡損益を計算しますので、源泉徴収口座の場合は取引ごとに税金の徴収・還付が行われます。
同一年の株式譲渡益から損失が引ききれない場合は同じ特定口座で受け取っている配当等と通算され、そのタイミングは翌年1月にまとめて行われます。
ここまでは同一口座内での計算となりますので、源泉徴収口座の場合はこの通算の結果をもって確定申告しないこともできます。
通算しきれない譲渡損は他の特定座や一般口座の譲渡益や配当等と確定申告で通算することとなります。
損失は引ききれなくても3年間繰り越し可能
上場株式の譲渡損失はその年中に他の譲渡益や配当等と相殺しきれなくとも3年間繰り越すことができる制度があります。
翌年以後、譲渡益が生じた場合にその利益と繰り越した損失を相殺することができます。
この特例を受ける際は譲渡損が発生した年分から毎年分の確定申告書を連続して行うことが要件とされています。
相殺するような所得が出なかった年も譲渡損の繰越明細を添付した確定申告書を提出しなければなりませんので提出漏れに注意しましょう。
損益を通算する手続き
譲渡損失の通算が源泉徴収口座で完結する場合や譲渡損を繰り越さない場合は、確定申告する必要がありませんので特に何もしなくともよいこととなります。
一方下記のようなケースでは確定申告が必要になります。
- 一般口座や簡易申告口座で取引を行っている
- 譲渡損が発生し他の特定口座等の譲渡益と損益を通算する
- 譲渡損が発生し他の特定口座等の配当等と損益を通算する
- 譲渡損が発生し翌年に譲渡損を繰り越す
- 前年以前の譲渡損と今年度の譲渡益と損益を通算する
- 前年以前の譲渡損と今年度の配当等と損益を通算する
特定口座を選択している場合は金融機関から送られてくる『特定口座年間取引報告書』を基に確定申告書を記入します。
確定申告は期限(例年3月15日)後となっても大丈夫ですが、源泉徴収口座の場合は一度譲渡損を含めずに確定申告書を提出してしまうと申告不要を選択したとみなされてしまいますので後から譲渡損を含めて確定申告書を提出することはできません。
逆に前年以前の譲渡損と今年度の利益を相殺するために確定申告書を提出したが、社会保険料が増えてしまったので特定口座の利益を除外して申告しなおすこともできません。
簡易申告口座の場合は、当初、譲渡損を含めずに確定申告を提出してしまった場合でも、改めて譲渡損失の金額を含めて更正の請求を行うことで譲渡損を翌年以後に繰り越すことができるようになります。
この場合は確定申告書を提出する順番にも注意が必要になります。
譲渡損が発生した年分の更正の請求をしたのち、その後の年分の確定申告書を順番に提出していかないと繰越控除の適用が受けられなくなってしまいます。
まとめ
上場株式の譲渡損について損益通算の仕組みと注意点を解説しました。
実際に損失と利益を通算する際には確定申告などの手続きに気を付けなければならないこととなります。
筒井会計事務所では株式取引に関する確定申告も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。