土地と建物を同時取得した場合の会計処理 – 東京地裁判決から学ぶ固定資産の取得価額の考え方

不動産を取得する際、土地と建物を同時に購入し、後に建物を取り壊して新たな事業用建物を建設することは珍しくありません。
しかし、この場合の税務処理には注意が必要です。
2024年11月13日、東京地裁はホテル経営会社が取得した土地と建物に関して、取り壊した建物の帳簿価額約16億円は土地の取得価額に算入すべきとする判決を下しました。
今回は、この判例から学ぶべき重要ポイントを解説します。
前提
本件事例は、ホテル経営会社X社(原告)が2024年に築50年以上の老朽化した建物とその土地を一括購入し、その後の税務処理を巡る争いです。
X社は入札により本件不動産(土地・建物)を取得後、売主との約束で1年3か月間のリースバック契約を締結しました。
リースバック終了後、X社は建物を取り壊し、新たにホテルを建設。
このとき取り壊した建物の帳簿価額約16億円を固定資産除却損として損金算入しましたが、税務当局がこれを否認し、土地の取得価額に算入する更正処分を行い、東京地裁での訴訟となりました。
「取得目的」が税務処理を左右する
不動産取得において最も重要なのは、その「取得目的」です。
本件判決では、法人が土地と建物を同時に取得し、短期間のうちに建物の取壊しに着手するなど、土地建物の取得目的が「建物を取り壊して土地を利用するため」と認められる場合、建物の取得価額とその取壊費用は土地の取得価額に算入すべきとされました。
企業が不動産を取得する際、表面上は土地と建物を一括購入したように見えても、実質的な目的が土地の利用にあり、取得段階から建物は取り壊す予定であった場合、建物部分の価額は土地の取得価額として扱われるのです。
本件では、ホテル経営会社が築50年以上の老朽化した建物を含む不動産を取得しましたが、入札段階から一貫して建物を取り壊してホテルを新築する計画を持っていたことが認定されました。
こうした「取得目的」の認定には、取得に至る経緯、建物の状態、取得後の利用状況、取壊しの時期や経緯など複数の要素が考慮されます。
中小企業の経営者の皆様は、不動産取得時に単に会計上の配分だけでなく、取得の実質的な目的と将来の利用計画を文書化しておくことが重要です。
リースバック契約の存在と実質判断
本判決で注目すべき点の一つは、リースバック契約の評価です。
対象事例では、不動産取得後に元所有者に1年3ヶ月間建物を賃貸する契約が締結されていました。
一見すると、このリースバック契約の存在は「建物を活用する意図があった」という主張の根拠になりそうです。
しかし、裁判所はこのリースバック契約について、「専ら売主側の都合で締結されたもの」と認定しました。
実際、入札要綱における売却条件の一つとしてリースバック契約の締結が義務付けられており、これは売主が別の物件に移転するまでの猶予期間を確保するためのものでした。
このように、形式的な契約や取引の存在よりも、実質的な取引の目的や経済的合理性が重視されます。
リースバック契約があったとしても、単に取引条件として付随的に発生したものであれば、建物を活用する意図の証明にはならないのです。
中小企業の皆様が不動産取得を行う際は、契約書や覚書の形式だけでなく、取引の実質や目的が税務上どのように評価されるかを考慮する必要があります。
特に、取引の一部として付随的な契約が含まれる場合、その契約の実質的な意味合いを検討し、税務処理にどう影響するかを専門家と相談しておくことが賢明です。
建物の帳簿価額の取り扱い
本件で納税者側は、取り壊した建物の帳簿価額約16億円を固定資産除却損として損金に算入する申告を行いました。
これが認められていれば、大きな節税効果が得られたはずです。
しかし、税務当局はこれを否認し、代わりに土地の取得価額に算入すべきとの更正処分を行いました。
固定資産除却損の損金算入が認められるのは、すでに事業の用に供していた資産が何らかの理由で除却される場合です。
対して土地建物の取得目的が「建物を取り壊して土地を利用するため」であった場合、建物の帳簿価額は土地の取得価額に算入されます。
土地は非減価償却資産であるため、その価額は減価償却による費用化ができません。
この違いは税務上非常に大きな意味を持ちます。
除却損として一度に損金算入できれば即時の節税効果がありますが、土地の取得価額に算入された場合は、将来土地を売却するまで税務上の効果は発生しません。
土地建物の取得目的の判断時期
本判決では、取得目的の判断基準時を「土地建物の所有権移転時」としています。
つまり、所有権移転時点での意図や計画が重要であり、その後の事情変更は原則として考慮されません。
判決では、不動産の所有権を取得した時点で、納税者は「本件建物を取り壊して本件土地上にホテルを新築することを決め、これに沿った行動をしていた」と認定されています。
具体的には、売買契約締結後に設計会社にホテル新築のボリュームチェックを依頼していたこと、収支見込額を試算していたこと、リースバック契約終了前から建物解体工事を発注していたことなどが証拠として挙げられています。
この判断基準は、中小企業の不動産取得戦略において極めて重要です。
所有権移転時点での意図や計画が後の税務処理を左右するため、取得時の意思決定プロセスや検討資料、議事録などを適切に保存しておくことが必要です。
特に、建物の活用可能性を真剣に検討したことを示す資料や、事業計画の変更があった場合の合理的な理由を説明できる文書を準備しておくことが望ましいでしょう。
固定資産の取得価額に算入すべき費用の範囲
固定資産の取得価額に算入すべき費用の範囲について改めて考える機会を提供しています。
減価償却資産の取得価額は、資産の購入代価と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額とされています。
非減価償却資産である土地についても同様の考え方が適用されます。
土地と建物を同時に取得する場合、建物を取り壊す予定であれば、その建物の取得価額と取壊費用は実質的に土地の取得のために支出した費用と考えられます。
一方、建物を事業に使用する予定であれば、建物部分の価額は建物の取得価額として区分されます。
まとめ
不動産の取得目的により会計処理が異なる判例をご紹介しました。
取得目的が「建物を取り壊して土地を利用するため」と認められる場合、建物の帳簿価額は土地の取得価額に算入されるため、一時の損金算入はできません。
本件は現在控訴中であり、今後の動向にも注目が必要です。
中小企業の経営者の皆様は、不動産取得の際に取得目的を明確にし、取引の実質に基づいた適切な会計処理を行うことが重要です。
また、高額な取引においては消費税に対する影響もありますので事前に専門家に相談し、将来の税負担を考慮した最適な取得スキームを検討することをお勧めします。