分掌変更により退職金を支給する際の注意点

長年会社を支えてきた社長が引退し、子供へとバトンタッチする。

会社にとって大きな転換期であり、後継者育成と事業承継は重要な課題です。

今回は、社長交代に伴う退職金の支給について、税理士の視点から注意点をお伝えします。

退職金支給のメリット

退職金を支給する会社側では原則的に全額経費となりその分利益が圧縮され法人税が軽減されます。

長年会社に貢献してきた社長の退職金となると金額も大きくなり一時的に会社の株価も下がることが多いので、これを利用して自社株式の移転を進めることもできます。

また受け取る側としては老後生活や新生活への生活資金が一定確保できることは安心につながります。

税金面でも給与や賞与として受け取るよりも所得税や住民税が軽減され、国保などの社会保険料の対象にもなりません。

退職金の所得税の計算内容については以前の記事を確認してください。

この税制上有利な退職金ですが役員の分掌変更を理由に支給することも可能です。

分掌変更とは実際に退職はしていないが役員として受け持つ役割が大きく変更することを指します。

例えば常勤だった役員が非常勤となったり、取締役が監査役になるといったケースが例示されています。

事業を承継する際などに前代表者が非常勤の会長職となり、後任の社長へ業務を引き継いでいく場面などで活用されていますがその支給には注意点もありますので以下で見ていくこととしましょう。

注意点

退職と同一の事情があるか

退職金はその名の通り退職時に受け取る一時金のことをいいますが、分掌変更は実質的に退職と同様の事情があるため認められた特例的扱いとなります。

そのため下記のような基準を満たす必要があります。

  • 職務内容が大きく変化しているか
  • 給与の金額がおおむね50%以上減少しているか
  • 会社の経営上主要な地位を占めていないか

分掌変更の前後で担当している職務の範囲や内容がほぼ変わらないと退職とは認められないこととなるでしょう。

また給与の金額は50%以上減少しているが、減少後の報酬が新社長の報酬の5倍の金額となっていたことで会社の経営上主要な地位を占めていると認定された事例もあります。

経営上主要な地位を占めていないかどうかは様々な側面から判定されますので次のような重要事項の意思決定には関与していないことを証明できるようにしましょう。

  • 取引先の選定や新規契約、取引先との対応
  • 人事や給与査定
  • 資金調達や設備投資
  • 連帯保証人からの除外など

会社内部だけではなく外部の関係者とのやりとりにも参加しないといった状況が必要になります。

未払ではないか

分掌変更による退職金は実際に支給したときに経費となります。

未払金に計上しただけでは原則として認められません。

不相当に高額ではないか

役員退職金は同業類似業種・同規模の他社と比べて不相当に高額と判定されると会社の経費として否認される規定が存在します。

一般的には功績倍率法が用いられ以下の要素から計算されます。

  • 功績倍率=同業類似法人の役員退職金÷(その役員の最終月額報酬×その役員の勤続年数)
  • 退職金相当額=退任役員の最終月額報酬×退任役員の勤続年数×平均功績倍率

計算根拠を示すためにも役員退職慰労金規程を定めておきましょう。

まとめ

近年分掌変更による退職金の否認事例が多くなっていますので注意しましょう。

退職金と認められないとその一時金は賞与として認定されてしまい法人税法上の経費として認められず法人税が課税されてしまいます。

また所得税・住民税でも実効税率の低い退職金ではなく賞与とされることで追加の税金が課税されるので税負担への影響が大きくなってしまいます。

筒井会計事務所では株価対策や退職金の適正額のご相談も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

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