【法人成】役員報酬の基礎知識
事業が成長し規模が大きくなってくると法人化を検討される個人事業主の方も多いと思います。
個人事業から法人事業へ移行するに伴い、自分自身の財産と法人の資産をきちんとわけるため今まで支払っていなかった自分自身への報酬(役員報酬)を決めなくてはなりません。
今回は役員報酬の決め方や注意すべき点を解説いたします。
目次
役員報酬とは
役員の定義
役員に支払われる給与を言い、役員には取締役、会計参与、監査役、執行役や会計監査人、理事、監事、清算人、合同会社の業務執行社員などが該当します。
法人税法上の役員は上記に加え、下記のような方々も役員とみなします。
- 使用人以外の者(相談役や顧問など)でその法人の経営に従事している者
相談役や顧問なども経営に従事している方は該当します。 - 同族会社の支配株主グループに属しており、その会社の経営に従事している者
同族会社の株式の50%超を所有している役員の配偶者などは、よほどのことがない限り会社の経営に従事しているとみられるでしょうから役員とされる可能性が高いです
役員報酬に含まれるもの
役員報酬とは役員に支払われる給与・賞与をいいます。
現金以外にも債務の免除や生命保険料などの経済的利益も法人税法上は役員給与とされます。
決め方
定款または株主総会で決めますが定款で定める場合は役員報酬を変更するたびに定款を変更するための特別決議が必要になることから、実務上は株主総会で決定することが一般的です。
株主総会などで役員全体の総報酬額を定め、各役員への報酬額はそのまま株主総会で決定する方法と代表取締役若しくは取締役会に一任する方法とがあります。
利益調整ができないように下記の3つ以外は法人税の計算上、経費(損金)にならない
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
このうち業績連動給与は有価証券報告書などを開示している上場会社などに限られるため説明を省略します。
経費(損金)になる役員報酬
毎月支払う報酬(定期同額給与)
内容
支払時期がひと月以下の一定の期間ごとである給与で事業年度中の各支給時期の支給額または手取り額が同額であるものをいいます。
注意点
事業年度中の各支給時期の支給額等が同額であることが要件になっていますので一度株主総会で支給額を決定すると次の株主総会まで変更できないこととなります。
変更が認められているのはその変更が①決算日から3月以内の変更である場合、②役員の職制上の地位の変更や同等のやむを得ない事情があった場合、③経営状況が悪化したことにより報酬を減額した場合に限られます。
①決算日から3月以内の変更である場合は主に定時株主総会での変更となります。
②には社長・会長・専務・常務などの地位の変更や、病気やケガで入院し職務が果たせなくなったり、不祥事による報酬返納が含まれます。
③業績悪化改定事由による場合は、一時的な資金繰りの都合や単に業績目標に達しなかったことは理由に含まれず、金融機関からの借入金返済のリスケジュールを協議した結果であることやコロナ禍による経営環境の急変などの理由が必要になります。
いずれの場合でも株主総会などの開催と議事録の作成が必要となります。
また一定の場合には社会保険の届け出が必要になることもありますので忘れずに手続きしましょう。
賞与(事前確定届出給与)
内容
所定の時期に確定した額の給与を支払う旨の届出を事前に税務署に提出し、そのとおりに支払う給与をいいます。
注意点
役員に賞与を支給する場合は前記の定期同額給与に該当しないことから原則は経費になりませんが税務署に事前に届出を提出することにより経費とすることができます。
この規定の適用を受けるには株主総会からひと月以内もしくは事業年度開始の日から4月以内(新設法人の場合は設立日から2月以内)に税務署に提出する必要があります。
定期同額給与と同様に①役員の職制上の地位の変更があった場合や職務内容の重大な変更がある場合や②経営状況が悪化した場合には届出の内容を変更することが可能ですが、こちらも届け出の期限は事由発生日や株主総会の日から原則ひと月以内となります。
支給金額については届出の内容どおりに支給しなければならないため一時的な資金繰りの都合などにより支給金額を上下させた場合は支給金額全てが経費にならなくなります。
業績悪化事由に該当するまではいかなくとも業績目標に到達しなかったため賞与を辞退するなどの場合には支給時期前に辞退しないと所得税が課税されるため注意が必要です。
こちらについても株主総会議事録の作成・保管しておくことが求められます。
経費(損金)にならない役員報酬
- 上記の経費になる役員報酬以外の役員報酬
例えば役員報酬を事業年度中に2回増額(1回目は事業年度開始日から3月以内に改定、2回目は3月以後に増額し臨時改定事由には該当しない)した場合は2回目の増額分は定期同額給与にならないため経費になりません。
出典:国税庁 役員報酬に関するQ&A Q3
役員とみなされる役員の配偶者などに残業手当を支払う場合なども上記と同様に扱われる可能性がありますので注意が必要です。
- 過大な役員報酬
役員報酬が不当に高額と判断されると経費にならないことがあり、その判断基準として形式基準と実質基準とがあります。
形式基準:定款や株主総会などで定めた役員報酬限度額を超える部分の金額
実質基準:その役員の職務内容や同業種・同規模の他社の状況と照らしてバランスを欠いているとみられる部分の金額
まとめ
適切な役員報酬を支払うことで法人税の節税にもなりますが一方で社会保険料負担の増加や役員個人の所得税・住民税の増加にもつながります。
また消費税の納税判定などにも影響を及ぼすため特に法人設立直後の役員報酬の金額設定には注意が必要です。
筒井会計事務所では法人化をご検討の方の相談も承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。