青色申告特別控除が変わるかも? 65万円控除を継続するために必要な準備とは

青色申告の特典の中でも、事業者の皆様にとって最もメリットが大きいのが「青色申告特別控除」です。

現在65万円(または55万円)の控除を受けられている方も多いと思いますが、現在検討されている令和8年度の税制改正案では、この制度が大きく変わる可能性があります。

特に大きな焦点は、書面申告の場合に55万円控除がとれなくなるかもしれない点です。

この改正が実現すれば、すべての青色申告法人・個人事業主の経理業務に大きな影響を与えます。

手書き帳簿や紙での申告に慣れている方も、デジタル化への準備を急ぐべきでしょう。

今回は改正案の論点と、今から取り組むべき次の一手について、詳しく解説します。

青色申告特別控除とは

青色申告特別控除は、青色申告を行う事業所得、不動産所得、山林所得を生ずる事業者が、日々の取引を正確に記帳し、その帳簿に基づいて適正な申告を行う場合に適用できる税制上の優遇措置です。

最大のメリットは、所得金額から最大で65万円もの金額を差し引ける点にあります。

例えば、収入から必要経費を差し引いた所得が500万円の場合、この最大額の控除を適用すれば435万円(500万円-65万円)に対してのみ税金がかかることになり、適用しない場合に比較して税金が大きく減少します。

55万円以上の控除を与える要件として、期限内申告や貸借対照表の提出も求められます。

「複式簿記」と「簡易帳簿(単式簿記)」の違い

青色申告特別控除の金額は、記帳の方法によって大きく変わります。

複式簿記(55万円・65万円控除の要件)

取引のすべてを二つの側面(借方と貸方)から記録する方法です。

例えば、現金で備品を購入した場合、「備品が増えた(資産の増加)」と「現金が減った(資産の減少)」という二つの動きを同時に記録します。

この方式は手間がかかる分、企業の財政状態(貸借対照表)と経営成績(損益計算書)を把握でき、信頼性が高いとされています。

55万円・65万円の控除額を受けるための必須要件です。

簡易帳簿(10万円控除の要件)

単式簿記とも呼ばれ、主に収入や経費の金額など、取引を一側面から記録する方法です。

家計簿に近いイメージで、記帳の負担は軽いものの、企業の全体像を把握するには不十分とされます。

現行制度では、この簡易帳簿で青色申告を行う場合、控除額は10万円となります。

改正案においても基本は10万円控除ですが、適用対象者が限定される可能性があるため、多くの中小企業経営者にとっては複式簿記への移行がより重要になるでしょう。

改正案の内容

55万円控除から10万円控除への引き下げの可能性

現在、複式簿記による青色申告を行っている事業者は、電子申告の有無によって控除額が分かれています。

電子申告を行う場合は65万円控除、電子申告をしない書面申告の場合は55万円控除が適用されます。

しかし、令和8年度の税制改正案では、電子申告をしない場合、控除額を55万円から10万円に引き下げる方向で議論が進んでいます。

これは、従来の「複式簿記で記帳さえしていれば、書面申告でも55万円控除が受けられる」という制度設計が、デジタル化の流れによって大きく変わることを示唆しています。

特に、現在55万円の控除を受けている事業者、つまり紙の申告書を提出している事業者は、改正が実現すれば控除額が45万円も減ってしまう可能性がありますので電子申告に切り替える大きなチャンスととらえましょう。

75万円控除の新設案

今回の改正案の一つが、最高の控除額75万円の新設です。

これは、複式簿記での記帳と電子申告していることに加え、請求書データ等との自動連携や訂正削除履歴の記録など一定の要件を満たす電子帳簿等の要件を満たすことで、従来の65万円からさらに10万円上乗せされ、75万円の控除を受けられるようにする案です。

このことから、今後は控除額が、65万円(複式簿記+電子申告)、75万円(65万円控除の要件+優良な電子帳簿等)、そして10万円(電子帳簿等の要件を満たせない場合や書面提出・簡易帳簿)の3段階に集約されることが予想されます。

65万円控除を維持するだけでも、経理のデジタル化は避けて通れない道となる可能性が高いと言えるでしょう。

また、簡易帳簿による10万円控除の対象者も、一定の収入金額以下の者に限定される方向で議論が進んでいます。

令和8年改正案に備え、経理担当者・経営者が今すぐ取り組むべきこと

会計システムの改修や業務フローの変更には時間を要しますので、早めの対策が不可欠です。

まずは、65万円控除を目指すために電子申告を行うことができるか確認しましょう。

電子申告を行う方法は、マイナンバーカード方式が基本となります。

国税庁は、セキュリティ強化と行政手続きのデジタル化推進のため、令和7年10月以降、順次ID・パスワード方式を廃止する方針を示しており、今後はマイナンバーカードの利用が必須となります。

具体的な準備としては、マイナンバーカードとカードを読み取るためのICカードリーダライタ(またはマイナンバーカード対応のスマートフォン)を用意することが必要です。

その上で、国税庁のe-Taxソフトまたは市販の申告ソフトのe-Tax連携機能を利用できるように設定を行います。

この電子申告の体制は、令和8年度の改正案で要求される「電子帳簿等」の要件とも密接に関わってくるため、まだ導入されていない場合は早急に進めるべきです。

さらに75万円控除を目指す場合には会計ソフトの見直しなどを検討しましょう。

現在利用しているソフトが、改正案で焦点となっている電子帳簿保存法の要件、特に「優良な電子帳簿」や「データ自動連携」の機能に対応しているかをベンダーに確認し、未対応であれば令和8年までに新たなシステムへの移行を検討します。

また、ペーパーレス化のために、請求書や領収書などの証憑類はスキャナ保存や電子取引のデータ保存を徹底し、帳簿作成から保存までを一貫してデジタルで行う体制を構築します。

この改正案は、経理業務のデジタル化を推進する絶好の機会です。

システム導入には初期費用がかかることもありますが、将来的な業務効率化、そして最大の控除額を確保するための「先行投資」と捉える意識が大切です。

まとめ

青色申告特別控除の改正案は、事業者のデジタル化促進をさらに推し進めるものです。

改正案が現実のものとなった暁には、書面提出から電子申告への切り替えが求められます。

さらに可能な方は、会計システムの見直しやデータ連携を進めることで、業務の効率化と最大75万円の控除額確保を目指しましょう。

当事務所では、顧問契約をご検討されている個人事業主様を対象に、初回面談を無料で実施しております。

改正案への具体的な対応策や貴社の経理体制のデジタル化についてアドバイスさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

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